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高松高等裁判所 昭和46年(う)170号 判決 1973年9月17日

被告人 松木正広 外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人松木正広を懲役八月に、

被告人稲井松太郎を懲役一年に、

被告人松木仲治を懲役六月に、

各処する。

本裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用中、弁護人中村詩朗に支給した分は被告人松木仲治の負担とし、その余は被告人ら三名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴つてある松山地方検察庁西条支部検察官事務取扱検事福永宏作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は、被告人松木正広の弁護人佐伯継一郎、被告人松木仲治の弁護人中村詩朗各作成名義の答弁書、被告人稲井松太郎の弁護人白石基作成名義の弁論要旨と題する書面に各記載してあるとおりであるから、ここにこれらを引用する。

検察官の控訴趣意は、事実誤認を主張するものであり、その要旨は、原判決は訴因の意味を正解せず、かつ本件国有地(愛媛県東予市河原津字永納乙三〇番地畑四畝三歩および同所乙三一番地畑二反六畝二六歩)に対する被告人松木仲治名義の買受予約申込書、買受申込書等を作成提出して、その払下げを要求した行為が、作為による欺罔行為である点を見誤つた結果、優に犯罪の成立を認め得る本件に対し無罪の言渡をしたものである。すなわち原判決は、公訴事実とほぼ同一の事実である、「被告人稲井松太郎は、昭和三五年一〇月ころ本件国有地等が民間へ開拓地として払い下げになる旨聞知するや、景色の美しい本件国有地附近にかねてより隠居所を建てたいと考えていた矢先、みずからは入植者選考基準に該当しないため、脱法的手段を用いてでも本件国有地を手に入れようと企て、爾来機会あるごとに被告人松木正広(当時旧三芳町農業委員会々長)に対し相談をもちかけ、本件国有地が自分に払い下げになるよう画策を依頼していたこと、そして、昭和三七年五月ころ、被告人松木正広からいわゆる地元増反者として払い下げを受けられる見込のある被告人松木仲治の名義をかりて払下申請をなすようすすめられるや、そのころ被告人松木仲治に対し、自己のため同被告人の名義をもつて本件国有地の払下申請手続をしてくれるよう依頼したこと、そこで、被告人松木仲治は、右依頼にもとづき払下申請をすることとし、みずから本件国有地を開墾し且つ利用する意思がないのにかかわらず、右の事情一切を秘匿して、当時愛媛県知事あて同被告人名義の買受予約申込書および買受申込書を提出し、国に対し本件国有地の買受申込をした結果、昭和三八年二月一日付をもつて被告人松木仲治あてに農地法第六一条の規定により本件国有地の払い下げが行なわれ、昭和三九年九月一八日同被告人名義に所有権保存登記のなされるに至つたこと。」を認定しながら、本件公訴事実中「被告人稲井松太郎が本件国有地を払い下げにより法律上取得しようとしたこと」「愛媛県知事に本件国有地の取得者について誤信があつたこと」および「被告人稲井松太郎において本件国有地の所有権を取得したこと」等については、いずれもこれを認めうる証拠がないから、本件は公訴事実の証明がなく、被告人等はいずれも無罪であると判断し、なお仮定の問題として、仮に、本件訴因を変更し「被告人らは、共謀のうえ、被告人松木仲治において本件国有地の開墾ならびに利用の意思がないのにかかわらず、これを黙秘して、(あるいは同被告人名義の買受予約申込書および買受申込書を提出して同被告人に右意思があるごとく装い)、同被告人から国に対し本件国有地の買受申込をなし、知事をしてその旨誤信させて同被告人に払い下げをなさしめ、同被告人において本件国有地を騙取した。」との趣旨にあらためたとしても、買受予約申込書および買受申込書の提出は、右各申込書の記載事項に照し、それ自体欺罔行為とはみられないのみならず、開墾ならびに利用意思の有無は国のみずから審査すべき事項であつて、事柄の性質上、買受申込者より国に対し右意思のないことを告知すべき法律上の義務はないから、かような事実の黙秘が詐欺行為とならないことはいうまでもない、との判断を示し、結局本件に対し無罪の言渡をしたのである。

しかし本件起訴状の公訴事実は、被告人ら三名が共謀のうえ、被告人稲井松太郎のため、被告人松木仲治名義をもつて本件国有地の払下申請手続をなし、同被告人に対する払い下げ名下にこれを騙取しようと企てたこと、その結果真実は被告人稲井松太郎において本件国有地を払い下げにより取得しようとしているのにかかわらず、この事実を秘匿し、被告人松木仲治名義で関係書類を提出して払下申請をし、愛媛県知事を誤信させたことによつて同知事をして被告人松木仲治宛に本件国有地の払い下げを行なわせたことを骨子とするものであり、本件詐欺は、右払い下げにより被告人松木仲治が右国有地の所有権を取得したことにより既遂となつたものである。もつとも本件起訴状公訴事実の末尾に「同稲井松太郎においてこれを取得して騙取したものである。」と記載してあるが、被告人稲井松太郎が所有権を取得したか否かは本件詐欺の訴因自体には関係なく、右記載は、被告人稲井松太郎が、それまで不法に占拠していた本件国有地に対する事実的支配を、共犯者である被告人松木仲治名義でその払い下げを受けた結果より合法らしく支配するに至らしめた経過を余事的に記載したものである。

以上の次第であるから「被告人稲井松太郎において本件国有地の所有権を取得していない。」とか、「知事は被告人松木仲治宛に払い下げをなし、同国有地は別人(稲井松太郎など)でない松木仲治の所有に帰したから、知事には国有地の取得者の同一性につき誤信がない。」などの理由によりたやすく詐欺罪の証明不十分となし得るものではなく、原判決が仮定的に判断した部分(知事をして被告人松木仲治に対し本件売渡処分をさせたこと自体が詐欺となるかどうか)が、本件の首題であるといわなければならない。(原判決のいうように訴因を変更してはじめて審判の対象となるのではない。)。そして被告人松木仲治名義をもつて買受予約申込書、買受申込書等を作成提出し、本件国有地の払い下げを要求した行為は、相手方を欺罔する違法な行為に該当するものであり、それを欺罔行為でないとした原判決の判断には誤りがある。

これを要するに原判決は、事実誤認の結果有罪として刑の言渡をなすべきであるのに無罪の言渡をしているので、とうてい破棄を免れない、というのである。

よつて検討するに、まず訴因について考えると、本件起訴状の公訴事実は、その措辞妥当を欠き誤解を生ぜしめた部分もあるが、これを詐欺罪の構成要件にあてはめ、また開拓財産売渡に関する農地法およびその関係法令をも参照して合理的に理解すれば、その訴因は論旨の主張するような趣旨のものであると考えられる。すなわち本件公訴事実は、(1)国が本件国有地を農地法六一条により売渡すべく、土地配分計画を作成公示してその手続に着手したこと、(2)被告人らは右手続の開始を機会に共謀のうえ、本件国有地を隠居所建築の目的で取得したいという希望を持つているけれども国から売渡処分(以下払い下げと称す)を受ける適格を有しない被告人稲井松太郎のため、その適格者となりうる被告人松木仲治の名義をもつて払い下げを受け、これを騙取しようと企てたこと、(3)そこで被告人らは、本件国有地を取得したいのは被告人稲井松太郎であり、被告人松木仲治は、いわば同被告人の身代りとして申請するにすぎず、自らこれを開墾利用する意思がないのにかかわらず、この事情を秘匿し(起訴状には、真実は被告人稲井松太郎において本件国有地を払い下げにより取得しようとしているのにかかわらず、この事情を秘匿し、と記載されているが、それは上記のような意味であると解することができる。)、被告人松木仲治名義の買受申込書等の払下申請関係書類を作成し、これを愛媛県知事宛に提出したこと、(4)同知事は右のような事情を知らず、被告人松木仲治が自己の農地増反のため右申請をしたものと誤信し、よつて昭和三八年二月一日本件国有地を同被告人に売渡す旨の売渡処分をし、同被告人はその所有権を取得したこと、等の事実から構成されているものというべきである。そして詐欺罪は被害者が錯誤に基づき任意に財産上の処分行為をなし、犯人側がこれを受ければ、それで既遂になるのであり、一方農地法六七条一項三項、四〇条によれば、同法六一条の売渡処分は、知事が売渡通知書を作成して売渡の相手方に交付することによつて完了し、国有地の所有権は、右売渡通知書に記載された「売渡の期日」に売渡の相手方に移転することになつているので、本件起訴状に「同知事をして昭和三八年二月一日本件国有地につき被告人松木仲治宛に払下手続をなさしめたうえ、昭和三九年九月一八日同被告人名義に所有権保存登記を完了し、」とあるのは、昭和三八年二月一日に、右の意味の売渡処分が完了し、被告人らの所期したとおり被告人松木仲治に本件国有地の所有権が移転した旨主張しているものと理解できるのであり、それにより本件詐欺が既遂に達したことになるので、そこまでが本件の訴因であり、それ以後のことを起訴状に記載してもそれはいわゆる余事記載ということにならざるを得ない。本件起訴状は、公訴事実の末尾に、「よつて同稲井松太郎においてこれを取得して騙取したものである。」と記載したため誤解をうんでいるが、本件起訴状の文脈からいつても、被告人らは共謀のうえ、被告人松木仲治の名義をもつて払い下げを受けて本件国有地を騙取しようと企てて詐欺の実行行為をなし、その結果同被告人名義をもつて払い下げを受けて右国有地を取得し、それにより被告人ら三名共謀による騙取の目的を遂げたことになるのであるから、たとえ被告人松木仲治、同稲井松太郎間において特約により、右国有地が被告人松木に払い下げられた場合には即時その所有権は稲井に帰することになつていたとしても、稲井松太郎の名をあげ、同被告人においてこれを取得して騙取した、と記載したのは全く妥当を欠くが、(末尾のしめくくりの文句としては、単に「もつて騙取の目的を遂げたものである。」等の記載をすればよかつたのである。)、この記載があるため、本件の訴因を上記のように理解することをさまたげるものではなく、勿論右記載のため起訴状が無効となるものでもない。

以上の次第であるから、原判決が仮定的に判断した事項が実は本来の訴因であつて、その点を審判するため訴因の変更を要するものではない。ところで本件の事実関係は、原審で取調べた関係証拠によると、原判決がその理由中で認定している事実(さきに控訴趣意のなかで引用した。)のとおりであり、問題は、被告人松木仲治名義で買受予約申込書および買受申込書を提出して本件国有地の払い下げを求めた行為が欺罔行為といえるかどうかに集中してくる。そこでこの点につき判断するため、前記原審で取調済の証拠のほか、(証拠略)をも総合して、さらにくわしい事情を検討すると、

(1)  被告人稲井松太郎は、本件土地に自分の隠居所を建てたいと考えたが、みずからは農業を営む者でもなく増反者選考標準に該当しないため、被告人松木正広に相談し、同被告人から三芳町在住の者の名義をかりて払下申請をしたらよいと教えられ、その後同被告人と相談のうえ、順次江原潤三郎、槇文十郎、岩城亀松等の名義をかりて払い下げを受けようと画策したが、いずれも客観的にみて不適当であるとして三芳町農業委員会事務局長等に難色があり、途中で沙汰やみとなつた。そこで最後に被告人松木正広は、一応精農家と認められ、第一次の売渡の際本件国有地の隣地の払い下げを受けた実績のある被告人松木仲治に目をつけ、同被告人名義で払下申請をすれば難なく払い下げを受けられるものとの見込をつけ、昭和三七年五月ごろ、相談に来た被告人稲井に対し、松木仲治の名義を使つて払い下げが受けられるようにしてやる旨申し向けた。そこで被告人稲井は、被告人松木仲治に事情を打ち明け、同被告人名義で本件国有地の払下申請の手続をしてくれるよう依頼し、ここに被告人ら三名は順次共謀し、その結果被告人松木仲治は、自己名義の買受予約申込書、買受申込書等所定の書類を愛媛県知事宛提出したこと、

(2)  買受予約申込書は、農地法六三条により市町村長を経由して知事宛に提出することになつているが、実際の取扱いは、その事務を農業委員会事務局が行なつており、県の行政指導によりある程度農業委員会の意見を付させるようにしており、買受予約申込書には選定調書のごときものを添付のうえこれを提出しているのが実情であつたこと、

(3)  買受予約の申込に対しては、開拓審議会の意見を聞いてその適、不適を定め、適当と認められる者に対し売渡予約書を交付することになつているが、右審議会の審議は、多くは書面上の審査だけで払い下げの適、不適を判定しており、特に疑問を生じないかぎり面接調査等を行なうことなく、本件の場合も、被告人松木仲治が前に隣地の払い下げを受けており、その際適格性につき審査済であること等の事情と相まつて、書面上の審査だけで異議なく適当と判定されていること、

(4)  被告人稲井は、被告人松木仲治との間の予めの申合せにより同被告人が本件国有地を取得してもそれは名義上のものであるから、同被告人に所有権移転登記を経た後は、無条件かつ無償で被告人稲井にその所有権移転登記手続する旨を確約した覚書を交換しており、本件払い下げが行なわれた後、被告人松木仲治は、本件国有地に全然手をつけておらず、被告人稲井が事実上これを管理していたこと、

等の事実を認めることができる。

そこで次に以上の認定事実に照し、被告人らの行為が欺罔行為であるかどうかにつき検討することとする。まず原判決が問題としている被告人松木仲治名義の買受予約申込書(昭和四六年押第五二号の二九中の該当書面)の記載事項を調べてみると、同書面には農業経営の状況として、九反九畝五歩の農地を自作し、乳牛三頭を飼育し、石油発動機等の農機具を有すること等が記載され、また世帯員の状況として被告人松木仲治ほか家族五名の氏名、年令、職業、稼働力等が記載されているだけであつて、開墾ならびに利用意思の有無については何も記載されていない。しかし農地法六一条による国有地売渡に関する法の建前から考えてみると、国は、自作農を創設し、又は自作農の経営を安定させるため必要があるものとして、開発して農地にすることが適当な私有地を買収したり(農地法四四条以下)、同様の目的で同様の国有地を他官庁から所管換又は所属替して農林大臣の管理に移したりし(同法七八条)たうえ、これらの国有地を農地法六一条以下の規定により売渡すのである。従つてこれら国有地は自作農の創設又は自作農の経営の安定以外の目的でこれを売渡すことはできないものである。そして右売渡は土地配分計画を定め、これを公示して買受希望者を募集することからはじまるのであるが、この公示は、売渡をなす国有地の地区名、所在地のほか、入植者、増反者の二つに区分し、それぞれ予定売渡口数、予定売渡面積をかかげてこれを公示するのである(農地法六二条、同法施行令九条、昭和二七年一二月二三日農林省地局第四〇八三号通達)。従つてこの公示にもとづく買受予約の申込みは、右公示に対応した入植の目的又は増反の目的を有する者のみがこれをなすものと考えられており、右のような目的を全く有しない者がその申込みをするようなことは法の予想しないところである。そして農地法六三条、同法施行規則三六条は買受予約申込書の様式を規定しているが、そこでも入植者、増反者の区別がなされ、右規則三六条二号の様式に従つて申込みをすれば増反者として申込みをしたことになるのである(本件はその場合である。)。次に増反者としての買受予約申込書の提出があると、都道府県知事は、(イ)開拓の熱意があるかどうか、(ロ)世帯構成が開拓に堪え得るかどうか、(ハ)既耕作地の集散状況及び増反地区の耕作距離等農業経営の現状からみて、増反せしめることが適当であるかどうか等の選定基準(昭和二七年一二月二三日農林省地局第三九四三号通達)に照らし、自作農として農業に精進する見込のあるもののうちから適当と認められる者を選定し、その者に売渡予約書を交付することになるのである。

さて以上のことから考えると、本件の買受予約申込書の提出は、増反者の募集に対する増反者としての申込みであり、たとえ申込書中にその旨の記載がなくても、右申込書の提出自体に、「本件国有地の払い下げを受けたうえは、自己の所有物としてこれを開墾利用し、自己の営農に役立てます。」という積極的な意思が表明されているとみるのが相当であり、また被告人らもそのことを十分承知の上でこれを提出したものと認められる。勿論知事は、真実申込者に開墾ならびに利用の意思があるかどうかを審査できるけれども、そのような意思のあることは当然の前提とされ、審査はむしろ客観的な事情からその者が自作農として農業に精進するか、あまり精進しないか、精進するとしてもその精進が十分成果をあげ得るような状況にあるかどうか、等を問題として行なうものであり、かつ愛媛県における審査の実情はさきに認定したとおりであつて、本件のように他人の身代りとなつて申込みをするものである等の事情は、本人がこれを黙秘するかぎりその発見は困難であり、特に本件では、過去に払い下げを受けた実績があり、一応信用のある被告人松木仲治の名義を利用して申請したものであるから、いつそう審査は形式的となり、立ち入つて開拓の熱意の有無まで審査することを期待するのは無理である。

さて以上のように考えると本件の問題の行為は、買受予約申込書提出の事実上の窓口であり、買受申込書の提出については進達の権限のある農業委員会の会長である被告人松木正広も加わり、信用のある被告人松木仲治の名義を利用し、適格性のない被告人稲井松太郎に本件国有地を事実上支配させるため、開拓審議会等の審査の目が届かないことを見込んでなした欺罔行為というべく、十分処罰に値する事犯であり、原判決の説示するように、買受予約申込書等の記載事項の中に開墾、利用の意思の有無の記載がないとか、このような意思の有無は国が自ら調査すべきで、買受申込者にはその点の告知義務がない等の理由でその罪の成立を否定し得るものではなく被告人稲井松太郎の弁護人が主張するように、本件を可罰的違法性のない行為とすることもできない。

以上のとおり原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、本件控訴は理由があるので、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所において直ちに判決する。

(罪となるべき事実)

被告人ら三名は共謀のうえ、国が農地法第六一条により、愛媛県東予市(旧三芳町)河原津字永納乙三〇番地畑四畝三歩ならびに同所乙三一番地畑二反六畝二六歩の国有地につき、未墾地として売渡処分をするため、その公示をなすや、右国有地を取得したいという希望を持つているけれども国から売渡処分を受ける適格を有しない被告人稲井松太郎のため、その適格者となりうる被告人松木仲治の名義をもつてその売渡を受けこれを騙取しようと企て、昭和三七年九月下旬ころから翌三八年一月中旬ころまでの間に、旧三芳町役場内等において、真実は被告人稲井松太郎のためにその身代りとなつて申込みをするものであり、自らは、本件国有地を保有しこれを営農に役立てる意思のない被告人松木仲治において右事情を秘匿し、同被告人にその意思があるように装つて同人名義の買受予約申込書および買受申込書を順次作成し、同町長又は同町農業委員会を経由して、右売渡事務をつかさどる愛媛県知事宛にこれを提出して売渡処分を求め、同知事をその旨誤信させ、よつて同知事をして昭和三八年二月一日ごろ、同日を売渡の期日として本件国有地合計三反二九歩を被告人松木仲治に売渡す旨の売渡通知書を同被告人に交付させて、その所有権を同被告人に移転させ、もつてこれを騙取したものである。

(証拠の標目)(略)

(確定裁判)

被告人松木正広は、昭和四六年三月二五日松山地方裁判所西条支部で農地法違反幇助の罪により懲役一年、三年間刑執行猶予の裁判を受け、当時控訴の申立なく確定したものであり、右事実は、同被告人の当公判廷における供述によりこれを認める。

(法令の適用)

法律に照すと被告人らの判示所為は刑法二四六条一項、六〇条に該当するので、所定刑期の範囲内で被告人稲井松太郎を懲役一年に、被告人松木仲治を懲役六月に各処し、被告人松木正広には前示確定裁判があり、この裁判を経た罪と判示詐欺の罪とは、刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条により未だ裁判を経ない右詐欺罪につきさらに処断することとし、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、被告人ら三名につき刑法二五条一項一号により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとし、なお訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり判決する。

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